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とあるフランス人の思い出

ストラスブール

私のフランス人の知り合いに、アルザスに住む恐ろしく個性的な男がいた。男と書いたが、果たしてあれを男と呼んでいいのかは複雑だ。とにかく同性愛者だったのだが、そっちの世界も奥が深いらしく、一言で説明するのは無理がある。が、今回はその話ではない。

彼は音楽家で、なかなか優秀なチェンバロ奏者だったのだが、とにかく器用な奴で自分の楽器を自作していた。自作したのは楽器だけではない。アパートの部屋も年中改造しまくっていた。その改造が趣味のレベルを大きく越えていたのだ。

なにせ、半年ぶりに訪ねようものなら、まず部屋の数が変わっている。大抵は増えているのだが、たまに減っていることもある。一年を通じて部屋数が同じであったためしがない。

ある夏など、いままでトイレがあった場所が忽然と消え、台所が二倍の広さになっていた。そして、それまで寝室があった場所に浴室ができているではないか。全くこの男の頭の中は一体どうなっているのだろう。なにが嬉しくて一年中部屋の改造ばかりしていたのか、いまだに理解できない。

彼とはもう二十年近く会っていないのだが、パリに住む知り合いのフランス人から貴重な情報を得た。彼はその後、パリ郊外へ引っ越し、とある劇団で歌手の伴奏者をしていたらしいが、そのうち自ら役者になってしまったそうだ。ただ、役者として成功している様子はないとのことだった。

まあ、フランス人というのはおかしな奴が多いものだ。例えば、リヨンという街に住む別の知り合いは、道に捨ててあった古いテレビを拾ってきて、それに衣類を掛ける金属製のハンガーを逆さまにして接続していた。要するにアンテナのつもりだ。そんなバカな、と思ったが、ちゃんと映るのには驚いた。いやはや、私の知り合いにはこんな連中が山ほどいる。ひょっとすると、私自身こいつらの影響を知らず知らずのうちに受けているのかもしれないな。

それはともかく、先ほどの役者に転向したフランス人だが、彼がまだチェンバロを弾いていた頃の思い出に傑作なことがある。

南フランスの中世の教会でのコンサートだった。教会といっても岩山の頂上である。なんとか人がひとり歩ける石畳の道があるだけで、車などは一切通れない。しかも山道は急で足を踏み外したら転げ落ちて大けがは間違いなしだ。で、彼と彼の仲間たちはこの山道をチェンバロを担いで登ったのである。これだけでも大したものだが、頂上の教会にはトイレがないため、トレイに行きたければ片道30分の山道を再び降りてふもとの村まで行かなくてはならない。もちろんその後30分以上掛けてコンサート会場である頂上まで戻ってくるわけだ。

このような過酷な状況のもと、彼は自作のチェンバロを得意げに演奏した。ハプニングが起きたのはコンサートの半ばすぎだった。この中世の教会には電気がないため、照明は蝋燭の火だったのだが、これが楽譜に燃え移ったのだ。彼は最後までなんとか弾いたが、音楽的にはとんでもないことになってしまったことは言うまでもない。

ちなみに、彼の自作のチェンバロだが、素人が見よう見まねで作っただけにミスも多く、幾つかの鍵盤は押しても音が出ない。それでは演奏にならないではないかと思うのだが、彼は出ない音を歌っていた。さすがはフランス人だ。我々日本人には無い発想に妙に感心してしまう。彼のようになりたいとは全く思わないが…

ところで、このコンサートでは彼が自作したのはチェンバロだけではなかった。なんと譜面台とイスまで自作していた。どちらも木製で、真っ黒に仕上げてあった。なんでもこのコンサートのために特別に作ったらしい。一体何の意味があるのかさっぱりわからないが、これが彼の感性なのだから仕方がない。なにせ一年中部屋の改造をしている奴だ。コンサートの度に譜面台とイスを自作しているのも彼らしいと言えば彼らしいではないか。

ところが、この譜面台とイス、コンサートの直前に完成したということで、まだペンキが乾いていなかったのだ。彼のズボンが黒色だったことと、教会内が暗かったことにより全く気がつかなかったが、当然彼のお尻はペンキで真っ黒になっていた。打ち上げ会場のイスが真っ黒に汚れてしまったことはゆーまでもない…

それにしてもフランス人たちのバイタリティには驚かされる。ただ単にいい加減と言えばそれまでなのだが、なんだかんだ言ってもそれで生き抜いてゆくのだから大したものだ。

ちなみに、イタリア人の友達とフランス人について語り合ったことがある。このイタリア人の言葉に私は耳を疑った。「フランス人は実に理路整然としている。この国では何もかもが規則正しく、我々イタリア人からみると、まるで別の惑星だ。」

う~む、近いうちにイタリア人の話もした方がいいようだな。

 

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