きびだんご王国 | 桃太郎伝説ときびだんごについて、岡山の有志が集まって楽しく語るサイト

きびだんご王国 桃太郎伝説

きびだんごの古い友人

その日の朝、赤いバラの花束を抱えた私は、ある邸宅の前に立っていた。海が見渡せる小高い丘の上に立つ白亜の洋館だ。広い庭の花壇は手入れが行き届いているようだった。とても閑静な住宅街で、私が鳴らす呼び鈴の音以外何も聞こえないと思われた。少し躊躇した後、私は努めてさりげなく静寂を破った。

私が誰かを訪ねるといつもそうであるように時間が過ぎていった。

暫くしてドアが開くと、若くて魅力的な女性が目に飛び込んできた。透き通った情熱的な瞳、腰まで届く長い髪、長身が映える白いロングのドレス。そして小悪魔のような唇には、きびだんごが嬉しそうにくわえられていた。そうだ、今日はきびだんごの商談に来たのだ。わがきびだんご王国の経済はきびだんごの売り上げに懸かっているのだ。

私はバラの花束と百万ドルの笑顔を彼女にプレゼントした。応接間に通された私はテーブルの上にきびだんごを並べた。ヘソのあるレトロなきびだんごだ。(意味のわからない人は昨日の日記を読んでほしい。) 悪戯っぽい笑みを浮かべて彼女が言った。「面白い人ね。ヘソがない方がすっきりして奇麗なのに…」

私は彼女の豊かな胸元を見つめて言った。「嘘が女のアクセサリーであるように、ヘソはきびだんごの古い友人です。」そう言ってからゆっくり視線を上げた。ゆっくり上げたのは彼女の胸元に別れを告げるのが名残惜しかったからだ。そうして恐る恐る彼女の顔色を窺ったが、別に機嫌を害した様子はなかった。

それから我々は暫く雑談をした。映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』の第一作のラストシーンでスパロウ船長が言う決め台詞、「あの水平線を持ってこい!(日本語版翻訳では「水平線までつれてけ!」)は二人の脚本家ではなく、ジョニー・デップ自身が思いついた台詞であるとか、劇画『コブラ』の原作に間違って右腕にサイコガンが描かれた箇所が存在するとか、そんなマニアックな話で盛り上がった。

首尾よくきびだんごの売り込みに成功した私は、フェドーラ帽を目深にかぶり、邸宅を後にした。別れ際に「またお会いしたいわ」と長い髪を弄びながら彼女は言った。美女の依頼はいつでも歓迎だ。

港に続く坂道を下って行くと、ヘソのないクローンきびだんごを手にした人相の悪い親子と擦れ違った。「やっぱりきびだんごはこれよね」という声が聞こえてきた。可哀想に。君たちに明日はない。

擦れ違い様に目が合った私は、「いいですね」といって微笑んだ。何もいいことはなかった。ただそう言っただけだった…

 

ハードボイルドでレトロなきびだんごはコチラ

カテゴリー : きびだんご