都会での生活はストレスが多い。一歩外へ出ると人ごみやら排気ガスやらに巻き込まれてしまう。職場でも人間関係がなかなか難しい。面倒な客も多いし、雑用にも事欠かない。家に帰ってもリラックスどころか疲れがどっと出て気力が萎える始末だ。
そんなときは静かな田舎にでも出掛けるのが一番だ。新鮮な空気を吸い、小川のせせらぎを聞き、森のシャワーを浴びる…
しかし、忙しい毎日の暮らしの中ではそうそう田舎へ出掛けることもできない。
そこで、私がよく使うのが「本の森に逃げ込む」という手だ。私はもともと読書好きで、毎年あらゆるジャンルの本を100冊から150冊ほど読んでいる。今も同時に10冊以上読んでいるくらいだ。読書をしていると、内容にもよるが、日常生活の嫌な出来事を忘れて自分の世界に静かに浸ることができる。まさに都会の森林浴である。
というわけで、歴史やら物理やら生物やら経済やら政治やら心理やら大学入試問題集やらチェスやら将棋やらワインやらお茶やら漫画やら音楽やらビジネスやら、とにかく手当たり次第に本の森の中へ入って行くのだ。森は深ければ深いほどよい。外界の光が入ってこないほど深ければ、それだけ日常のストレスから解放される。非日常、これが私にとって読書の醍醐味なのだ。
ちなみに、醍醐味とは醍醐の味のことである。醍醐とは平安貴族が好んだといわれる乳製品の一種だ。古来より日本には乳製品などなかったと思っている人もいるかもしれないが、実は大昔からあったのだ。ただし、貴族の間でのみ楽しまれていたそうで、武士や一般人には普及しなかったようだ。もしかすると、あまりにも美味しかったため、貴族たちが独占し、他人には教えなかったからかもしれない。とにかく、醍醐は美味しいということで、それがいつの間にか様々な分野で魅力的な事柄を表すのに醍醐味という言葉が使われるようになった。
それはともかく、本の森は素晴らしい。中でも、最近私が特にはまっているのが辞書だ。辞書ならなんでもよいが、特にオススメなのが古語辞典である。最近では全訳とかいって、例文に現代語訳がついている。いたれりつくせりである。いにしえの日本語を探る旅はまるで時空を超えた旅をするようで実にスリリングだ。適当にあちこちのページをめくって、後は普通に書物を読むように辞書を読むだけなのだが、これが実に面白い。辞書は必ずしも引くものではないと痛感する今日この頃である。そうなのだ。辞書も物語も同じ書籍なのだ。
というわけで、人付き合いに疲れたり、仕事で行き詰まったりすると、私は辞書の中に逃げ込む。いわば、辞書の中に引き籠もるといった生活をしている。
こういう引き籠もりなら健全ではないだろうか。
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